東葛の寺社めぐり(番外)
印西市の神社・仏閣を訪ねて(前)
緑豊かな印西市を歩いた。印西市は2010年に印旛村と本埜村を編入合併したが、今回は北総線の南側、旧印旛村と旧印西市の一部を歩いた。
【戸田 照朗】
村自慢の結縁寺
地名にもなっている結縁寺を訪ねると、どこかで見た風景が広がった。寺の前にある弁天池と祠。NHKの「クールジャパン」という番組で、「里山」をテーマに放送した時に、この弁天池が紹介されていた。寺の隣には熊野神社の杜もある。私が撮影していると、「いいアングル見つかったかい?」と軽トラックに乗った農家の方が声をかけてきた。彼岸花が有名で、季節になると多くのカメラマンが訪れると教えてくれた。寺は無住で、地域の人たちだけで守っているという。同寺に安置されている銅造不動明王立像は国の重要文化財。地域の人にとって自慢の種でもあるのだ。その銘から、1303年鎌倉時代後期に造られたことが分かる不動明王は、今は展示のため、市外の博物館に出張中だとか。9月下旬には開帳される。
県道を挟んで反対側にある厳島神社。厳島神社や弁天社には池がつきものだが、この厳島神社にも橋がかかり窪地には、水の代わりに緑が繁茂している。雨量の多い季節には池と化すのだろうか。
泉福寺薬師堂
市内には国の重要文化財となっている茅葺き屋根のお堂が3つもある。岩戸の泉福寺薬師堂もその一つで、宗像小学校の隣にある。弘治2年(1556)に焼失し、その後再建されたと伝えられており、室町時代末期(15世紀中頃)の手法をしめしているので、この時のものと思われる。昭和56年の修理の時に貞享2年(1685)に現在の地に移築されたことがわかった。
浅間神社の急階段
神社は山の上など高いところに、寺は人里近く低地に多いように思われる。特に印旛沼周辺は起伏にとみ、いつものように自転車でめぐる私は苦労した。浅間神社は山の上にあるのが普通だが、印旛沼のほとり、瀬戸というところにあった浅間神社の階段は実に急で長く、登るのに苦労した。この周辺にはこうした階段が急な神社がいくつもあった。
村社宗像神社
旧印旛村の神社を語るとき、特筆すべきはそのほとんどが宗像神社だということだ。現在の地域(字)の名前はそのまま旧来の村々の名前だと思われるが、その村社のほとんどが宗像神社である。総本社は福岡県宗像市の宗像大社。祭神は、市杵嶋姫命・田心姫命・湍津姫命の三女神で、航海治水の神。印旛沼の近くということから、宗像神社が多いのだろうか。掲載した写真は、平賀の村社・宗像神社。長く緑豊かな参道は贅沢にさえ思える。都市部では見られなくなった光景だ。
伝説の古刹松虫寺
松虫の松虫寺は奈良時代、天平17年(745)僧行基の開創と伝えられる。初めは三論宗、のちに天台宗、真言宗となった。聖武天皇の皇女松虫姫(不破内親王)が重い病を患われた時に不思議な夢のお告げにより、下総に下向され、萩原郷に祀られていた薬師仏に祈ったところ病が癒えたので、天皇は行基に命じて七仏薬師を刻み一寺を建立し、姫の名前をとって松虫寺と名づけたという。境内には松虫姫神社もある。本尊の七仏薬師如来はカヤ材の一木造りで、平安後期の特色を伝える優作として国の重要文化財に指定されている。
近くの道の辻には松虫姫の乳母、杉自の塚がある。村人が杉自に感謝の念をこめて建てたと言われている。塚にはアカガシ、スダジイの二つの木が寄り添いくっつき仲良く立っている。縁結びの塚とも呼ばれている。 杉自塚に行く途中の辻に、根元に祠がある面白い形の大木があった。祠には大根が1本供えられていた。
毘沙門天と脇侍像
松崎の多聞院に安置されている木造毘沙門天及び両脇侍立像は県指定文化財。毘沙門天像内に製作趣旨と正応2年(1289)の銘があり、吉祥天像内には仏師賢光の墨書があり、三尊とも賢光の作例と思われる。8月上旬に開帳される。
吉高の大桜
吉高の大桜は市指定天然記念物。樹齢300年以上のヤマザクラ。根回り周囲6・65m、樹高11・7m、枝張り最大幅24・5m。畑の中に立ち、根元は周囲より1メートルほど高い塚となっており、所有者宅の氏神が祀ってある。
薬師如来坐像
平賀の来福寺に安置されている木造薬師如来坐像は県指定文化財。像高56・0cm、カヤ材の一木割はぎ造で中国・宋風の様式。像内胸部に仏師賢光の墨書銘があり、鎌倉時代の弘安8年(1285)に造られた仏像。
心に残る寺社
龍腹寺の仁王門の中では、仁王像の前で地元のご老人が茶飲み話に興じていた。仁王門の壁には木槌やわらじが奉納されている。仁王門も立派だが奥には地蔵堂もあった。同寺の梵鐘は県指定文化財。
鎌苅の東祥寺は600年の歴史がある古刹。お参りすると、お坊さんが本堂に入れてくれ、ご本尊を拝ませてくれた。参拝者にはみな同じように案内しているという。
山田の八坂神社。地図にもちゃんと載っているが、行ってみると小さな祠のような神社だった。後ろの木に絡みついた細い根がなんとも言えずいい感じだ。
吉高の宗像神社の参道に3本の大木が絡み合うように立っていた。すべてを掲載できないのが残念だが、今回の取材では鎮守の森の見事な樹木にたくさん出会った。それだけ印西市の自然がまだ豊かに残されているということだろう。
※参考資料=「ガイドマップいんざい」(印西市)。仏像の写真は全て印西市教育委員会提供。