トランボ:DVDジャケットの写真

日曜日に観たいこの一本

トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

第二次世界大戦後、1940年代後半から50年代のはじめにかけて、アメリカでは赤狩りが猛威をふるっていた。大戦中はソ連が同盟国であったため、共産主義に傾倒する人も少なくなかった。ところが、戦後、ソ連との対立が激しくなり、冷戦が始まると、共産主義は危険思想と見なされるようになる。

売れっ子脚本家だったダルトン・トランボはハリウッドで確固たる地位を築き、信頼できる妻と3人の子どもたちに囲まれて、幸せな日々を送っていた。ところが、共産主義に傾倒していたことから、赤狩りを主導する下院非米活動委員会や保守的な俳優ジョン・ウェイン、執拗につきまとうコラムニストらから理不尽な追求を受け、窮地に立たされていく。彼らに誘導された世論により、一般国民の目も厳しい。見知らぬ男から「国賊」よばわりされて、コーラをぶっかけられる始末。仕事が減り、郊外の豪邸を引き払うことに。転居先では、家族が隣人の嫌がらせを受けた。赤狩りという名の思想弾圧は、悪しきナショナリズムとして人々の心に浸透してゆく。

トランボは議会で仲間の名前を言うことを求められたが、これを拒否。彼は仲間を売るということをしない。彼は議会を侮辱したとして、投獄されてしまう。この時、議会での証言を拒否した彼の仲間たちは、同じように苦難の道を歩むことになる。

やがて出所し、最愛の家族のもとに戻るトランボだったが、すでにハリウッドでのキャリアを絶たれた彼には仕事がなかった。しかし、家族の生活費を稼がなければならない。そして、何より自身の創作意欲を抑えることができなかった。表立って彼に仕事を頼むことができない映画会社も、彼の才能を欲している。トランボは偽名や友人の名を借りて作品を書きまくることになる。その作品の1つが、あの不朽の名作「ローマの休日」だ。映画館で家族とともに作品を鑑賞するトランボの目に映るのは、「真実の口」の有名なシーンだ。

トランボは同じように干されていた脚本仲間にも仕事をまわし、プロデューサーのように影の脚本家集団を率いていく。まるで、密かな反撃を開始するように。

 

トランボの写真

トランボという人は天才だったのだろうか。集中できる場所が風呂なのか、バスタブにタイプライターを持ち込んで、紫煙をたなびかせ、ウィスキーをまるでお茶のように飲み、そして時に何かの錠剤を口に含みながら、ものすごいスピードで物語を生み出してゆく。人目をはばかり、出来た原稿は、子どもたちに映画会社に運ばせる。

どこか飄々(ひょうひょう)としたトランボの中にある不屈の精神。そして、彼を支える家族の愛と、苦難を共にする仲間の友情が胸を打つ。

民主主義というのは難しい。思想弾圧はファシズムや一部の共産主義国の問題かと思いきや、アメリカでもこんなに酷い弾圧が行われていた。

あの困ったトランプ大統領を生み出したのも、民主的に正当な選挙だ。ただ、アメリカにはまだバネのような修正能力があるところが、さすがだと思う。トランプ大統領の人種差別を容認するかのような発言を国民、メディアの多くが強烈に批判し、政権を窮地に追い込んでいる。

監督=ジェイ・ローチ/出演=ブライアン・クランストン、ダイアン・レイン、ヘレン・ミレン、エル・ファニング/2015年、アメリカ

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「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」、DVD税別3800円、ブルーレイ税別4700円、発売・販売元=TCエンタテインメント