動き出した図書館整備計画

基本理念は「未来創造図書館」

松戸市教育委員会はこのほど松戸市図書館整備計画を策定。長年懸案となっていた図書館整備計画が再び動き出した。今度こそ市民待望の新図書館は作られるのか。今後の展開が注目される。

記念シンポジウムで講演する片山善博氏の写真▲記念シンポジウムで講演する片山善博氏

松戸市図書館整備計画を策定

20日には市民会館で記念シンポジウムを開き、慶應義塾大学教授で元総務大臣、前鳥取県知事の片山善博氏の講演のほか、有識者によるパネルディスカッションが行われた。

同計画は、松戸市図書館整備計画審議会の提言をもとに作成された。同審議会の委員は常世田良立命館大学教授(元浦安市立図書館館長)を会長とする6人。昨年6月から今年1月まで6回の会議と市内の図書館の視察が行われた。

同計画は「目指す図書館像」を示したもので、いつまでに、どこに新図書館を建設するといった具体的な計画は示されていない。

基本理念は題して「まなび、つながる、どりーむ(夢)を実現する、知のネットワーク~ま・つ・ど 未来創造図書館~」。

図書館が全ての利用者にとって、「学び」を通じた人と人のつながりにより「新たな気づき」や「新たな知恵」を生み出す場所となることで、様々な人や地域の課題の解決、知的創造活動を支援し、夢や希望の実現、地域に役立つまちづくりの拠点となることを願い、基本理念が決められたという。昨年6月の市民アンケートによると、まだ図書館を「本を借りる場」とだけ認識している人が比較的多かったという。こうした従来の固定観念から脱却し、先進的な図書館像に近づける内容となっている。

この基本理念のもと①「知」と出会い 人と人をつなぐ図書館、②「くらし」や「仕事」に役立つ図書館、③「まつど」の歴史と文化を伝える図書館、④本を通じて 子どもを育む図書館、⑤思い思いに過ごせる 広場のような図書館、⑥自ら学び 行動する図書館、という6つの目指す図書館像が示されている。

例えば、「学生や地域の人たちが、図書館の資料を使ってグループで学習することができる」「好きな本、好きな作家について語り合うブックディスカッションが行われる」「起業をしたいと考えている人に必要な資料や情報を提供できる」「博物館の展示や戸定歴史館を見学した人が、展示品をもっと詳しく知りたいと思ったときに、関係機関と連携して資料や情報を提供できる」「おもしろそうな絵本を見つけたら、その場で子どもたちが夢中になって読みふける場所や読み聞かせができる場所がある」「広く明るくゆったりとくつろぐことができる」「利用者の相談に真剣に応え、市民の自主的活動に的確な支援ができる職員」といった内容だ。

 

厳しい松戸市立図書館の現状

同計画の冒頭には厳しい松戸市立図書館の現状についても書かれている。

松戸市の図書館は昭和18年に松戸町立図書館として中部小学校に併設され、同4月の松戸市制施行に伴い松戸市立図書館となった。昭和42年には移動図書館みどり号の巡回が始まり、昭和47年には最初の分館として常盤平分館が開館。現在の本館が開館したのは昭和49年。また、同じ年に分館第2館目となる稔台分館が開館し、本館 ・常盤平分館・稔台分館の3図書館とみどり号の巡回によって、市民への図書の貸出を行ってきた。その後も、市民センターの建設に伴い、図書館分館の開設が続き、計19の分館が開館した。稔台分館開館運動をきっかけに始まった「おはなしキャラバン」の活動などもあり、当時は他自治体からの視察を受けるなど、松戸市立図書館は先進的で注目される存在だった。

しかし、現在、同じ人口40万人以上の規模の自治体の本館(中央館)の平均が6000平方メートルを超える中、本館は2000平方メートルに満たない広さであり、他の自治体と比較すると著しく狭く、また分館についても、100平方メートル未満が9館、100平方メートル以上200平方メートル未満が9館、275平方メートルが1館と、他の自治体では公民館に併設されている図書室程度の規模のものが多くを占めている。

図書館に不可欠な書庫がなく、旧古ヶ崎南小学校内に書庫を作っているが、収容能力は約53万冊と、増加する資料を収蔵するには大幅に不足している状況だ。インターネット閲覧サービスについても、スペースの確保ができないことから、一部の施設での提供にとどまっている。

 

記念シンポジウムで行われたパネルディスカッションの写真▲記念シンポジウムで行われたパネルディスカッション

平成25年度末現在、蔵書は図書館全体で56万9510冊。近隣市と比較すると、同じ人口規模の市川市立図書館は約108万冊で、松戸市の約2倍弱。柏市立図書館は約91万冊で約1・6倍となっている。千葉県内の公共図書館と比較すると、人口1人あたりの平均蔵書数が3・47冊であるのに対し、松戸市では人口1人あたり1・19冊と、県内で図書館を設置している自治体の中で最下位となっている。

人口1人あたりの図書費については、県内平均170円に比べ松戸市は127円と平均を下回っている状況だ(平成25年度決算)。

平成25年度末現在の登録者数は、22万3932人と利用登録者は年々増加しているが、平成25年度の実貸出利用者数は5万5050人と登録者数の4分の1程度、全人口の1割強の利用にとどまっている。市民の図書館に対する期待感の薄さが感じられないだろうか。

貸出数も県内の38自治体の図書館で比較してみると、人口1人あたりの平均貸出冊数が6・0冊に対して、松戸市は4・79冊と平均を下回っている。

レファレンス(利用者の相談に対して必要な資料や情報を提供し支援するサービスのことで、図書館の重要な役割の一つ)の平成25年度の件数は、県内平均が6629件に対し、松戸市は1132件と約6分の1程度となっている。

図書館に勤務する職員は、正規職員32人、非常勤職員49人(平成26年4月1日現在)。正規職員のうち、司書有資格者は10人、割合は約31%で、県内平均の約50%と比べ、専門職が少ない状況となっている。

 

新図書館建設に向けての課題

松戸市にとって図書館整備計画は長年の懸案だった。

新中央図書館の建設については、宮間満寿雄市長時代の第四次総合計画(平成元年~5年度)に登場し、実施計画にも載るものの先延ばし先延ばしで実現できなかった。その後も市の実施計画には書かれていたものの、平成12年、建設場所として有力視されていた岩瀬の旧大蔵省関税中央分析所の跡地(聖徳大学の隣)の取得を市(川井敏久市長)が断念したことで計画はいったん白紙に戻っていた。

今回の計画は「目指す図書館像」を示したもので、建物については触れていないが、現状の分析でも分かるとおり、松戸市の図書館の課題は、「蔵書を増やしたくても置く場所がない、書庫がない」という点が大きい。やはり、どんなハコ(建物)にするかは大きな課題となるだろう。

同計画では施設についてはあまり具体的に触れられていないが、100万冊以上の蔵書を持つ中央館、5万冊以上の地域館、5万冊未満の分館の整備を検討するという。

松戸駅周辺の再開発計画や、老朽化した公共施設の再編に合わせて検討されるようだ。