この世界の片隅に:DVDジャケットの写真

日曜日に観たいこの一本

この世界の片隅に

昨年11月に全国63館という小規模で上映が始まったこの作品は、公開以来口コミなどで評判となり、観客動員数200万人を超える大ヒット作品となった。今月15日にブルーレイとDVDが発売されたが、現在でも全国でロングラン上映が続いている。その波は海外にも広がり、先月にはアメリカで、今月からはフランスで上映が始まった。

こうの史代原作の漫画を片渕須直監督が劇場アニメ化した。

舞台は戦前戦中戦後の広島市と呉市。主人公のすずさんは、広島市江波で生まれた。絵が好きな夢見がちな少女。ばけもんや座敷童子(ざしきわらし)に出会い、夢と現実を行き来するような幼少時代を送る。優しい両親と厳しい兄、仲のいい妹。夏には引き潮の間に海を歩いて祖母の家に遊びに行く。そんな平凡で幸せな時を過ごしていた。

同級生で淡い思いをいだく男の子・水原哲がいたが、18歳になったすずさんに縁談が持ち上がる。呉で海軍軍法会議所の録事(書記官)を務める北條周作は幼い頃にすずさんに出会っており、ずっと探していたという。しかし、すずさんにはその記憶がない。義理の父母となる周作の両親は優しい。若くして夫を亡くした義理の姉の径子は、のんびり、おっとりした性格のすずさんとは正反対で、テキパキとしていて厳しいところがある。径子の5歳の娘・晴美はすずさんになついている。そして、なにより夫の周作が愛情深くて優しい。最初は周作の片思いのような夫婦関係だったが、徐々にすずさんにも愛情が芽生えてゆく。運命に流されるように、だれも知る人のいない呉に嫁いできたすずさんだったが、ここでも周囲に愛され溶け込んでゆく。
北條家の家は呉の高台にあり「東洋一」とうたわれた軍港が一望できる。港には、戦艦大和が悠然とその巨体を休めている。

二・二六事件から、日中戦争開戦、そして太平洋戦争と、すずさんが生まれてからの時代はどんどん暗い方へと進んでいくが、すずさんの日常からは、そんな大きな変化は見えない。

配給が徐々に少なくなる中で、食べられる野草をつみ、苦しいながらも工夫をこらして家族の食卓を豊かなものにしようとする。あまりにも空襲が続くので、その恐怖にも慣れてくる。変わらないと思っていた日常。でも、気が付けば、すずさんは大切な人を少しずつ失ってゆく。そして、昭和20年8月6日のあの日が近づいてくる。

片渕監督は原爆で失われた中島本町を現地調査により作品に描き出し、戦艦大和の呉入港時期を調査から割り出して、当日の天気まで調べて作品に反映させているという。

「見るたびに新しい発見がある」「見るたびに感じ方が違う」といわれるこの作品は、何度も劇場に足を運ぶ人がいるという。その発見は、監督がこだわる背景の細部だったり、登場人物の心の動きだったりする。私の中でも、まだ未消化で、気になっている場面がある。既にDVDを2回観たが、この原稿を書き終わったら、また借りて3回目を観てみようと思う。感動する場面も人によって、年代によって違うという。

この作品は、クラウドファンディングで3374人から約4000万円が寄せられ制作資金に充てられた(目標金額は2000万円だったという)。エンドロールの最後には、資金を提供した人たちの名前が流される。

監督・脚本=片渕須直/原作=こうの史代/声の出演=のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外/2016年、日本

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「この世界の片隅に」、ブルーレイ・DVD発売・販売元=バンダイビジュアル