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- カテゴリ: 本よみ松よみ堂バックナンバー
- 2015年1月25日(日曜)09:00に公開
- 作者: 奥森 広治
混沌とした時代を生きた女大名一代記
かたづの! 中島 京子 著
あれれ、歴史小説を読みたいと思って買ったのに、冒頭からファンタジックな書き出し…。これは失敗したかな、とちょっと後悔したが(私は映画も小説もファンタジーがあまり好きではない)、この物語の語り部は不思議な力を持った羚羊(かもしか)の角であり、語られるのは戦国時代の終わりから江戸の初期に南部藩の八戸(後に遠野)を治めた東北唯一の女大名の物語だった。遠野といえば河童など、妖怪や伝説の故郷である。
八戸南部氏の若き当主直政に嫁いだ祢々(ねね)は、森で一本角の羚羊に出会い、親しい友となっていった。羚羊はやがて寿命が尽きて死んでしまうが、その意識は角に宿り、祢々の人生をずっと見守っていくことになる。その不思議な妖力は、時に祢々のピンチを救い、片角様(かたづのさま)として奉られるようになっていった。
謀略が渦巻く南部藩。藩主で南部宗家の利直は祢々の叔父でありながら、祢々の夫直政と嫡男を謀殺したのではないかとの疑いが濃厚。祢々は、すわ戦(いくさ)へと逸(はや)る家臣たちを抑えつつ、領地を守る方策に心血を注いでいく。
強大な軍事力を持つ南部宗家に2千の兵力しか持たない八戸が太刀打ちできるはずがない。しかし、男たちは死に場所を求めて、なにかというと戦で散ろうとする。それが武士の花道だというように。しかし、女の祢々にはそれがどうしても理解できない。死んで花が咲くものか。どうして生き残る道を探らないのか。
祢々は知恵と度胸と忍耐で幾度も苦境を切り抜けていくのである。多くの屈辱に耐え、それでも家族や家臣を守るために生きる祢々の姿には、現代の女性にも通じる強さを感じる。
最初はどうかと思ったファンタジックなテイストも読みやすかった。
物語の中に出てくる「片角」や生前の羚羊を刺繍したという小袖は実在するのだろうか。そんな虚実ないまぜの展開が楽しい。