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脳科学が解き明かす「サイコパス」の正体

サイコパス 中野 信子 著

サイコパスの写真文春新書 780円(税別)

サイコパスとはもともとは、連続殺人犯などの反社会的な人格を説明するために開発された診断上の概念だという。サイコパスというと、アメリカのテレビドラマ「メンタリスト」に出てくる連続殺人犯「レッド・ジョン」が思い浮かぶ。高い知能の持ち主で、猟奇的な殺人を繰り返しながら、捜査の目を巧みにかいくぐることができる。悪魔的な魅力があるようで、「レッド・ジョン」のためなら命も惜しまない「信者」のような協力者や支援者が何人もいる。

しかし、「サイコパス=犯罪者」というわけではなく、大企業のCEOや弁護士、外科医といった、大胆な決断をしなければならない職種の人々にサイコパス(この本では、「サイコパシー傾向の高い人」を総じて「サイコパス」と表記している)が多いという研究結果もあるという。

著名な脳科学者である著者は、近年劇的に進歩した脳科学の観点から、サイコパスとはなにかを解き明かそうとしている。脳内の器質のうち、他者に対する共感性や「痛み」を認識する部分の働きが、一般人と大きく違うという。つまり、サイコパスは人の痛みがわからない人物ということになる。だから、利己的で自分勝手。人の痛みが分からないから、残酷なことも平気で出来る。

サイコパスは、だいたい100人に1人くらいの割合でいるという。意外に多い。しかし、人類の進化の歴史の中で、集団生活にはまことに迷惑な存在であるはずのサイコパスが一定数いるということ、サイコパスが淘汰(とうた)されず、遺伝子を残してきたということは、人類の生存上何か意味があったのではないか、と著者は考える。

現代のような平和で安定した日本では迷惑な存在でも、混乱期には恐れを知らぬサイコパスの大胆さが必要とされる時があったかもしれない。人類の歴史では、むしろ混乱期のほうが長かった。著者は、「あくまで個人的な見解」としながら、織田信長の名前をあげている。意外なところでは、聖女マザー・テレサもサイコパスではなかったかという。神経学者ジェームス・ファロンの指摘によれば、マザー・テレサは、援助した子どもや、彼女の側近たちには冷淡だったという報告が複数なされているという。

また、サイコパスには「勝ち組サイコパス」と「負け組サイコパス」がいるという。「負け組」は犯罪がすぐに露呈するようなことをしてしまって、監獄の中にいる。しかし、「勝ち組」は、他人をうまく利用して生き延び、容易にはその本性を見せず、私たちの身近にいる。脳科学的に見ると、「勝ち組」と「負け組」は脳の背外側前頭前皮質の厚みが違うという。「勝ち組」は「負け組」のような短絡的な反社会行動を起こしにくく、「今、この人を殺したら、ゆくゆく自分にとって損になる」と理解し、「生かさず、殺さず、搾取する」という冷たい計算ができるという。

本書では、サイコパスの外見や行動の特徴も示されている。私は、「あの人はひょっとしたら」と思いを巡らしながら読んだ。なんといっても、100人に1人はいるというのだから。