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80年代初頭、国士舘大学体育学部を舞台にした青春小説

国士舘物語 栗山 圭介 著

国士舘物語の写真講談社 1600円(税別)

1980年代初頭の国士舘大学体育学部を舞台にした青春小説。著者の略歴から、おそらく自身の体験や思い出を下敷きにした作品なのだと思う。母校への強い愛情を感じた。

東京でシティーボーイになるべく入学した江口孝介だが、その思いは入学式で黒づくめの男たちが大音響で奏でる軍艦マーチに粉砕された。日の丸と旭日旗のような校旗が高々と掲げられる中を、白いオープンカーに乗った総長が入場。10年前はオープンカーではなく白馬だったという。そして万歳三唱。この大学が軍国主義の流れを残していることを知らないわけではない孝介だが、時代錯誤のセレモニーに心が萎(しお)れた。

A組、B組、C組の3クラスがあり、それぞれ130人。A組は柔道、剣道、レスリングなど格闘技系の「猛獣」たちが占める男だけのクラス。B組も多くが武道系に所属するが、40人ほどの女子がいる。孝介が入ったC組は男ばかりのクラスだが、サッカー部、バレーボール部、ハンドボール部、そして孝介が所属する陸上部員が占める、3つの中では一番ゆるめのクラス。それでも、最初の顔合わせから拳を交えての乱闘騒ぎ。そこへ入ってきた主事(クラス担任)茶村先生は騒ぎを起こした学生を立たせ、掌底と呼ばれる音のしないビンタでクラスを制する。

まるで高校の延長のようなクラスの雰囲気に孝介はさらに意気消沈。その上、前期は「蛇腹」と呼ばれる戦時中の将校のような黒ずくめの制服の着用が義務付けられた。部の慣例で頭も丸刈りに。

特に寮に入った運動部の学生にとって、1年奴隷、2年平民、3年貴族、4年神と言われる過酷な日々が始まる。1年は永遠に続くかと思われる地獄だ。

孝介は陸上部も幽霊部員で、アパート住まい。地元の三重県にいる彼女との遠距離恋愛やバイトなど、寮生に比べれば自由で普通の学生らしい。地元ではそれなりにツッパっていたが、不良甲子園のような国士舘ではとても通用しそうにない。ピエロのような役回りを演じて、学校での居場所をなんとか確保する。厳しい実習や合宿など節目には避けられない試練があるが、それさえクリアすればなんとかなる。

孝介はやがてクラスで騒ぎを起こしたアラシや吉田、剛田といった寮生たちと友だちになる。彼らは寮生活の鬱積(うっせき)した不満を解消するように毒を吐き、簡単に拳を振り上げる。そんな彼らを最初は見下していた孝介なのだが、苦しい寮生活の中で徐々に生まれてきた彼らの連帯感や友情を知り、「なにもない自分」を省みることになる。

私は80年代の後半に学生生活を過ごしたので、ほぼ同じ頃である。物語に登場するアイドルの名前や居酒屋、そして合コンの雰囲気が懐かしい。まだ受験生だった頃、書店か予備校の売店で国士舘大学のパンフレットを見たことがある。私が目指していた大学とはかけ離れた雰囲気に、いったいどんな大学なのだろうという興味がずっとあった。この物語に書かれていることが事実に近いのなら、それは私のイメージを超えるものだ。

物語は1年に一番多くのページを費やし、2年、3年、4年、そして30年後の「いま」が描かれる。卒業するとき、孝介にとって国士舘大学の4年間はかけがえのない時間となっている。だれしも4年間をかけて、その大学の学生になるのだろう。

現在の国士舘大学のホームページを見てみた。アカ抜けした男子学生や、かわいらしい女子学生が都会的なキャンパスを紹介する動画が出ていた。

茶村先生は退官する時に、1年生に理不尽な体罰を加える悪しき伝統を変えることを願い、孝介のクラスメイトのアラシは2年になるとき、部活での1年生への対応を自分たちの代から変えようとしていた。今の国士舘大学がどんな学校なのかは知らないが、あるいはアラシたちの努力が実ったのかもしれない。