- 詳細
- カテゴリ: 本よみ松よみ堂バックナンバー
- 2014年4月27日(日曜)09:00に公開
- 作者: 奥森 広治
瀬戸内海の怪事件と村上水軍をめぐる謎
星籠(せいろ)の海 島田 荘司 著
著者の本を初めて読んだ。どうやら、シリーズの最終章らしく、少々不安もあったが、この本から読んでも十分に楽しめた。
御手洗という探偵と石岡という助手のコンビが事件を解決してゆく。シャーロック・ホームズとワトソンのような感じだが、ワトソンに比べ石岡が頼りなさ過ぎる。御手洗の洞察は天才的で、英BBCのテレビドラマ「SHERLOCK」に出てくる現代のホームズのようだ。
読み始めると、この二人の雰囲気があまりにも軽すぎて、これはやっぱり失敗したかなぁ…と再び不安になった(シリーズを読んでいる読者には、いつもの二人の顔見せ、ごあいさつ的な章だったのかもしれない)。
御手洗と石岡は、四国のある島に男性の遺体ばかりが流れ着く港があるという話を聞いて、吸い寄せられるように瀬戸内海にやってくる。
2章からは話がガラッと変わり、瀬戸内海の小さな港町から東京に出て行く男女二人の高校生の話になる。この章に入って、やっと小説らしくなってきた、と安心する。物語にも私にもエンジンがかかってきた感じである。
この二人の話のように、御手洗たちの動きとは別に、一見何の関係もなさそうなエピソードがいくつも挿入される。事件とどうつながっていくのか、点が線となるのはいつなのか、と展開が気になる。
二人の高校生がいた小さな港町というのは、広島県福山市の鞆(とも)というところ。若い二人にはただの田舎町かもしれないが、歴史的には古代からの交通の要衝として重要な意味がある場所だ。神功皇后、源義経、足利尊氏、最澄、空海、坂本龍馬もこの地に足跡を残している。そして、福山藩の藩主は幕末の難局に老中首座として立ち向かった阿部正弘だ。阿部は最悪の場合、ペリーの黒船と戦う覚悟で地元の英雄、村上水軍の英知を利用しようとしたのではないか。村上水軍は戦国時代に織田信長の水軍を大敗させた。信長は巨大な鉄甲船を作って反撃してきたが、村上水軍にも迎え撃つための新兵器があったのではないか。そんな歴史ロマンも背景となって、事件とからんでいく。
広島県は著者の地元で、それだけにいろんな知識がふんだんに盛り込まれているようだ。四角いプールのように穏やかな海に、美しい無数の島々が浮かんでいる。そして、海流は独特で複雑。読んでいると、瀬戸内海に行ってみたくなる。
「一気に読めました」と本書を評しているレビューを散見した。一気に読めるというのは、ほめ言葉だろうか。中身がなく内容が薄っぺらいから早く読めるということもあるし、なかなかページが進まなくても、いい読書ができたと実感させる作品もある。
ミステリーをあまり読まないが、ミステリーにとって結末はどの程度の重要度があるのだろう。いずれにしても、読んでいる間が楽しければ、それで十分な気もする。