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小説家の妻と、一番の読者である夫との絆

ストーリー・セラー 有川 浩 著

ストーリー・セラーの写真新潮社 1300円(税別)

この本は2編の中編からなっている。

前半の1編(Side:A)は、「Story Seller」(「小説新潮」2008年5月号別冊)に収録されたもので、当時、私は読んでいる。

「Story Seller」は「面白い物語を売る」というコンセプトのアンソロジーで読み応えのある中編小説が集められている(現在は新潮文庫)。

アンソロジーのタイトルと有川さんの小説のタイトルが同じなのは、アンソロジーのタイトルにインスパイアされて有川さんが小説を書いたからだという。

単行本化にあたって後半の1編(Side:B)が書き下ろされた。

2編とも小説家の妻と、妻を支える夫の物語である。知り合った時に妻がアマチュアかプロとしてデビューしていたかという違いはあるが、同じ会社の同僚として知り合い、夫が妻の作品の一番の理解者(ファン)であるという点は同じ。

Side:Aでは、妻が思考に脳を使えば使うほど、脳が劣化し、死に至るという奇病に犯されている。創作するために生きているような作家には、あまりにも過酷な運命である。

Side:Bでは、反対に夫がすい臓ガンに犯される。

妻の作品を真ん中に、二人は心の深いところで強く結びついている。読んでいて羨(うらや)ましくなるほどの、強い絆と愛情だ。

この本を読む前に、鯨統一郎さんの「作家で十年生きのびる方法」(光文社)という自伝的小説を読んだ。この作品の中でも、妻の助言と励ましが主人公の小説家の書く力になっている。

私の大学の卒業式の来賓は直木賞を受賞した志茂田景樹先生だった。作家になるまでの苦労話が披露され、奥様への感謝の言葉を語っていた。式典でのスピーチが心に残ることは少ないが、この時の志茂田先生のスピーチは印象的だった。

小説家にとって一番の理解者であるパートナーの存在というのは、いかにも大きいのだろう。

そして、今回紹介した作品では著者の有川さんと、主人公の小説家が重なる。どこまでが本当の話なのだろうかと、読む側に想像させる。

Side:Aは妻が病気になるのだから、基本的にはフィクションだろう。ではSide:Bはどうか。単行本全体の作りも、そんな想像をかきたてる内容になっている。