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- カテゴリ: 本よみ松よみ堂バックナンバー
- 2016年2月28日(日曜)09:00に公開
- 作者: 奥森 広治
時間を軸に読後温かいものが残る不思議な話
ペンギンのバタフライ 中山 智幸 著
ペンギンは海に飛び込むことはできても、飛ぶことはできない。泳ぐのは得意かもしれないが、ペンギンがバタフライをするのを想像して欲しい。羽が短くどこか不格好な泳ぎになりはしないか。そもそも、バタフライができるのだろうか…。5篇からなる連作短編。登場人物はバタフライをするペンギンのようにどこか不器用で不格好に見える。また、バタフライにはバタフライ・エフェクトもかけているのだろう。バタフライ・エフェクトとは蝶のはばたきのような小さな出来事が様々な影響を及ぼすというもの。同名の映画でこの言葉を初めて知った。
1話目の「さかさまさか」では、事故で妻を失った夫が、生前に妻から教えてもらった「都内の住宅街にのびる長い長い坂道を、自転車でうしろむきにくだっていけば、時間を遡(さかのぼ)れる」という都市伝説を信じて実行してみる。過去に戻って、なんとか妻の事故を防ごうとするのである。ところが、過去を少し変えると、予期せぬ変化まで引き起こしてしまう。彼が過去に戻れたということは、他にも同じことをした人間がいるかもしれない。知らず知らず他人のタイムスリップの影響を受けながら生きていて、どれが本当の現実だったか分からなくなってしまう。パラレルワールドである。
2話以降もこうしたちょっと不思議な物語が続き、相互に関係している。共通しているのは、現在、過去、未来が同時に存在しているかのような世界観である。そんな中で、名前やペンギンの栞などの小道具が効果的に使われている。
「バオバブの夜」…台風の夜、妻の出産のために訪れた病院の待合室で出会った男性と話をするうちに、どうも幼い頃に死別した父親のように思えてくる。
「ふりだしにすすむ」…若いOLの前に現れたのは、「ぼくね、きみの生まれ変わり」と話す白髭の太った老人だった。
「ゲイルズバーグ、春」…福岡に住む大学生が誤メールからたまたま友達になった女性は、2年後の世界に生きていた。彼も彼女も過去の友達関係に大きな悔いが残っており、この時間差を使って、過去の誤りを解消しようとする。
「神様の誤送信」…人の不幸の瞬間が見えてしまうという学生の話。
どの話も、短いなかにも、よく話が練られていて、読後に何かしらの温かいものを残す。それぞれの話がどう繋がっているのか考えながら、もう一度読み直してみれば、また違った発見もありそうだ。
短編としては「ふりだしにすすむ」が気に入った。老人のキャラクターがユニークで、老人とOLの掛け合いが面白い。